mornings and nights

ピノコがお腹のあたりにいます

冊子『Voices from Sarcoma Patients and Families(87人の視点からみるサルコーマの景色)』について

医療者さま配布用冊子『Voices from Sarcoma Patients and Families(87人の視点からみるサルコーマの景色)』が完成しました。

肉腫、希少がん、がん医療に関わるすべての皆さま(医師や研究者の先生、製薬企業の皆さま、看護師さん、薬剤師さん、検査技師さん、がん相談支援センターの方、精神腫瘍科の先生や心理士さん、ゲノム医療に関わっている皆さま、緩和ケアやアピアランスケアに関わる皆さま、がんの啓発活動や情報発信をしていらっしゃる皆さま、患者団体の皆さま、医療の制度などを決定する行政の皆さまなど)にお送りいたします。冊子をご希望の方は、メールにて、「ご所属」「お送り先住所」「電話番号」「お宛名」等をお知らせください。

メールアドレス:yoshizakiyukie(a)gmail.com (a)をアットマークに変換してお送りください。※治療スケジュールの関係で、返信に少々お時間いただくことがございます。ご了承くださいませ。

医療者さま以外の方・患者さまへの配布は現在未定です。お渡しできる機会がありましたらお知らせいたします。よろしくお願い致します。


◆内容紹介◆
87名の肉腫当事者の皆さまにご協力頂いたアンケート冊子です。医療者の皆さまに読んで頂きたく、つくりました。

〇参加者:87名(患者ご本人71名、ご家族9名、ご遺族7名)
〇アンケート質問数:約60問(ただし、該当する質問のみご回答いただきました)
〇アンケート質問内容:告知、肉腫情報探し、ふだんの診察、きびしい話の診察、先生の説明が分からなかった経験、通院、検査、入院、手術、放射線治療、化学療法、がんゲノム医療、妊孕性、治療中の暮らし、治療のお金、ふだんのお薬、リハビリ、周囲の理解、セカオピ、地域による医療の差、病院間の連携、オンライン診察、がん相談支援センター、アピアランスケア、緩和ケア、精神腫瘍科、完治をめざす治療ができなくなったときの診察、QoLを保つための減量手術、腫瘍との共存についての考え方、新たな治療の研究開発、臨床試験や治験、ドラッグ・ロスやドラッグ・ラグ、医療機関の情報発信、患者会やその他コミュニティ、肉腫・希少がんのイベントや学術集会、「こういうのがあればいいのに」、自由欄メッセージ

 


◆肉腫について・冊子をつくった背景◆
肉腫(英語:サルコーマ)は、骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)にできる悪性腫瘍の総称です。肉腫について詳細はこちらのページをご覧ください。

www.ncc.go.jp

全身いろんなところに発生しうる腫瘍で、細かなサブタイプも合わせると100種類以上もあるため、診断も治療もなかなか一筋縄ではいきません。希少がんの一種であり患者数が少ないので、新たな治療の研究開発が難しく、患者にとって治療の選択肢が少ないというのが悩みです。また、肉腫の治療経験が多いや先生や病院に出会うことも難しく、医療サポートシステムにもさまざまな課題があるようです。そして、正しい情報に辿り着くことが難しく、患者仲間に出会う機会も限られているので、患者も家族も孤独と不安を抱えながら病気と向き合うことが多いのが現状となっています。

私(吉﨑有希絵)は、後腹膜高分化型脂肪肉腫を抱えています。2016年の罹患から約10年間、たくさんの医療者の皆さまと、たくさんの患者仲間(ご家族やご遺族含む)の皆さまに助けて頂きました。


近年は、患者会「肉腫の会たんぽぽ」の皆さまとともにPatient Advocacy(ペイシェントアドボカシー/ 患者アドボカシー/ 患者の権利擁護) の活動やPPI(Patient and Public Involvement / 患者市民参画)のイベントに参加する機会も増え、希少がんにおいて「患者の声を医療者の皆さまに届けることがいかに大切か」「患者側・医療者側が協働することがいかに大切か」を強く感じる機会が増えました。

本冊子は、第9回日本サルコーマ治療研究学会学術集会Patient Advocacy Program「話してみよう/患者の困りごと、医療者の困りごと」登壇にお声かけいただいたことをきっかけに、つくりました。

今後とも、患者と医療者のあいだに継続的な対話がもうけられ、ゆくゆくは良い変化がうまれることを願っています。本冊子がその対話の材料の一つとなれば幸いです。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
『Voices from Sarcoma Patients and Families(87人の視点からみるサルコーマの景色)』

〇編著者:吉﨑有希絵
〇執筆:肉腫と向き合いながら生きる87名
〇ページ数:280ページ
〇サイズ:A4
〇デザイン:島田耕希、小島沙織(SHIMA ART&DESIGN STUDIO) https://shimaads.com/
〇表紙などの作品:島田耕希、小島沙織(Rivotorto Pieces) https://www.instagram.com/rivotorto_pieces/
〇印刷ディレクター:平井彰(加藤文明社 / atelier gray) http://ateliergray.jp/
〇発行所:くまねこ舎(2026年2月)
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

*本書は、たくさんの方のご協力のもとにつくった本です。内容を許可なしに転載するなど、著作権侵害にあたる行為の一切を禁じます。その様な行為を見つけた場合、法的な措置をとらせていただく可能性があります。
記事掲載などのご希望がありましたらお問い合わせフォームよりご連絡ください。

 

◆LINKS◆
SNSなどのリンク集です。https://linktr.ee/yukie.yoshizaki

 

患者の「ナラティブ」について / 冊子をつくって考えたこと

先日、「たんぽぽラジオ」の収録にゲストとして参加させていただきました。前編・後編に分かれており、私の治療経験、学術集会、冊子の話をたくさん聞いていただきました。(たんぽぽラジオの皆さま、ありがとうございました)

後編の中で、「今回の冊子におけるナラティブの重要性」について質問がでたとき、私はうまく答えることができませんでした。「ゆきえさんは、ほかの患者さんたちのナラティブも大切にしたくて、冊子をつくったということですね」というふうに話を振ってくださっていたのに、別の話にそらしてしまった自分に収録後に気づきました。

以前も、別の医療者の方から「この冊子は、患者さんのナラティブが大切ってことですよね」という言葉を頂いて言葉に詰まった経験があります。

今回のたんぽぽラジオ収録は、「ナラティブについて聞かれると、うまく答えられないのはなぜだろう?」「私はナラティブについて理解できているだろうか」と問い直す機会になりました。そこで、今回は「ナラティブ」という言葉を自分なりに整理して考えてみたいという思いから、この文章を書いています。

【ナラティブという言葉について】

「ナラティブ」は、英語の「Narrative」から来ています。

基本的な意味は、「物語」「語り」「誰が、何を、どのように語るか」。単純な事実の羅列ではなく、「その人がどう感じ、どう意味づけているか」というふうに個人の感情や体験に重点がおかれるようです。つまり、「ナラティブ」とは、出来事そのものだけでなく、「その出来事をその人がどのように受けとめ、どのような意味を見出しているかを含む語り(体験を意味づけたもの)」と言えます。

人は大きな出来事に遭遇したときに、自分のなかで意味づけをして、自分なりの物語をかたちづくります。「ナラティブ」は、人が時間・変化・経験を理解するうえでとても大切かつ基本的な手法だといえます。(Ohio State University "What is Narrative Theory?")

この「ナラティブ」という言葉はさまざまな場面で使われます。たんぽぽラジオでも触れられているとおり、ビジネス(ブランディングやマーケティング)の場面で使われるほか、メディアが作る社会のイメージ、国家や歴史の語られ方、個人のアイデンティティなどの話題でも、「ナラティブ」がキーワードになることがあります。

【医療における「患者のナラティブ」】

近年、医療においても患者の「ナラティブ」が重要視されています。

1950~60年代までは医師中心的な医療が当たり前とされていましたが、20世紀後半、アメリカで公民権運動や女性の権利運動と共通する流れで、「患者の権利を守ろう」という運動も現れ始めました。そして1990~2000年代、Rita Charonによって「Narrative Medicine(ナラティブ医療)」が提唱されました。

医師でもあり文学者でもあるRita Charonは「Narrative Medicine(ナラティブ医療)」をとおして、医師が患者の背景や病気に対する感じ方、その健康問題がその人の人生にどのような影響を与えているかを理解し、医療実践と融合させることを目指しました。このアプローチは、客観的な診療データだけでなく、患者ひとりひとりの固有の状況への理解を深めることを目的としています。(Janine Ungvarsky "Narrative Medicine" 2023)

この考え方は、Patient Advocacy(患者アドボカシー・患者の権利擁護活動)、PPI(Patient Public Involvement/患者・市民参画)とも密接な関りがあり、アメリカを始め、ヨーロッパの医療の考え方とも結びつき、近年では日本でも注目されるようになってきました。日本語でも「医療」「ナラティブ」で検索するとさまざまな解説ページが見つかるので、ご興味ある方はぜひ検索してみてください。(「ナラティブ」の定義は、研究者や実践者によって少しずつ定義が異なる場合があるようです)

【希少がん・肉腫における「患者のナラティブ」について】

がんのように生死にかかわる大きな病気の治療において「患者のナラティブ」は特に大切なように思えます。「ナラティブ」は、「患者ががんという人生の大きな出来事をどのように捉えているか」「どのように意味づけているか」を理解することに役立ちます。そこから見えてくるのは、「この患者さんが何を大切にしたいのか」「どのように生きたいのか」です。患者が何を大切にしているかを理解することは、治療選択やその後の生活の質(QoL)にも大きく関わると感じています。死を意識せざるを得ないとき、患者としては、十分な説明や選択の機会がないまま決定されてしまうことに、つらさを感じてしまうことがあります。

また、肉腫のような希少がんでは「患者のナラティブ」に別の意義が加わると思います。それは、「患者のナラティブ」が医療のあり方やガイドラインを変えていく可能性があるかもしれないということです。希少がんはメジャーながんと比較して、治療経験の集約化や研究が進みにくく、医療者も患者も手探りの状態がある分野だと思います。エビデンスが限られている領域だからこそ、患者のナラティブが新たな視点や気づきをもたらす可能性があるのではないかと考えています。そこから、ガイドライン、医療体制、システムが変わっていく可能性もあります。ナラティブは単なる補足情報ではなく、希少がん医療においては新たな知見の出発点になりうるため、希少がん患者が自分の体験や感情を伝えていくことはとても大切だと感じています。

こういった医療の流れの中で、2025年に札幌で開催されたJSTARの学会のPatient Advocate Programは、「患者の体験談は治療に必要か?~ナラティブな情報の役割を考えよう~」というテーマで議論が交わされたのだと想像しています。

【冊子において「ナラティブ」が大切だったのか】

では、冒頭の問いに戻ります。今回、私が87名の皆さんと冊子をつくったときに「ナラティブを大切にしたかったのか?」です。答えは「NO」と「YES」、どちらもあります。「NO」と言えるのは、当初からナラティブを意図して設計したわけではなかったからです。一方で「YES」とも言えます。結果として、この冊子には、患者の語りや背景、感情といったナラティブ的な要素が多く含まれているからです。

この冊子は、肉腫当事者87名それぞれ個別の「背景」、「治療歴」、「体験」、「困りごと」、「嬉しかったこと」を可視化して、医療者の皆さまと共有するためにつくりました。アンケートという手法をとりながらもデータ集計結果をまとめてしまうのではなく、参加者個々人のページとして見せることにこだわったのは、冊子を読んでくださる方に、肉腫当事者の声を「データ」ではなく、「個々の人間」として立体的に想像して頂きたかったからです。これは、私自身が治療の選択肢がなくなったタイミングで、先生方と話すときに、自分があたかも「もう諦めるしかない症例」「データ」として扱われたように感じてしまった経験があり、あまりにもつらかったからです。医療者の皆さまには、患者さんが「データ」や「症例」ではなく「(本来であれば100歳までだって幸せに生きていたい)ひとりの人間であること」を意識して向き合って頂きたいと感じています。

(医療者の皆さまは、毎日の診療のなかで、患者さん一人一人と真剣に向き合っているからこそ、治療終了の患者さんとお話しするのがつらいのだと理解しているつもりです。一方で、治療がなくなったときに、医療者の方の雰囲気が「追い出しモード」「あきらめモード」「ここまで生きられたんだからもう十分じゃない?みたいなモード」に変化したと感じて傷つく患者さんの声も耳にします。精神的な大変さがあるなか恐縮ですが、先生方はどうか最後まで向き合って一緒にいろいろ考えていただけると嬉しいです)

【今後の冊子活用について】

冊子には、87名の肉腫当事者の皆さま(ご本人、ご家族、ご遺族)の声がまとめられています。皆さまの多様な声を、手に取って読むことができることに価値があると信じています。ただし、実際に、当事者や医療者の皆さまと一緒に考えていくにあたって、「どういう声が多かったか」という傾向分析も必要になります。その際に、こぼれ落ちてしまうかもしれない少数意見をどうするのかが悩みどころです。少数だからといって重要度が低いわけではないということを大切にしながら、いかに現実的に良い変化につなげていくにはどうしたらいいのか、まだまだ自分だけでは答えが見つけられずにいます。

ナラティブの重要性について考えるためにこの文章を書いていますが、医療においてはエビデンス(科学的根拠)が大切であり、Evidence Based Medicine(エビデンスに基づいた医療)が基本となっていることは理解しています。ただ、Narrative (Based) MedicineとEvidence Based Medicineは対立するものではなく、それぞれ異なる側面から患者さんを理解し、支えるものだと信じています。Evidence Based Medicine(エビデンスに基づいた医療)と、Narrative (Based) Medicine(ナラティブに基づいた医療)をどのように結び付け、個々の患者さんを中心としたケア(Person-Centered Care)をつくっていくか。理想的なバランスはどのように見つけるのか。大変むずかしい課題ではありますが、皆さまのお知恵を借りながら一緒に考えていけると幸いです。

冊子についてはこちらから!

senaka-x.hatenablog.com

第9回JSTAR学術集会:Patient Advocacy Programについて

第9回日本サルコーマ治療研究学会(JSTAR)学術集会 Patient Advocacy Program(ペイシェント・アドボカシー・プログラム)にて登壇しました。

PAP登壇者一同 左から南敬一さん、押田輝美さん、横山幸浩先生、吉﨑有希絵、土橋賢司先生、志村敬彬さん、朴木寛弥先生(写真掲載許可をいただき、ありがとうございました)

Patient Advocacy という言葉は、日本語では「患者アドボカシー」「患者の代弁活動」「患者の権利を擁護する活動」などと訳されることがあります。この言葉の背景には、かつて医師中心的だった医療の時代から、だんだん患者中心的な医療の時代に変化してきた歴史があります。

自分ががんになったこと自体は喜ばしいことではありませんが、患者の権利や尊厳の重要性が広く理解される現代に生まれ、患者の声を大切にしてもらえる医療環境のなかで肉腫治療を受けられることはかなり幸運だと感じています。多くの方のご尽力、大変ありがたいです。

2017年の創設以来、JSTAR(日本サルコーマ治療研究学会)は、医療者と患者が相互理解を深める場をつくりだしてきました。初期から毎年設けられているPatient Advocacy Programは、「患者と医療者が手をとりあって一緒に肉腫医療のあり方を考えるためのプログラム」だと個人的には受けとめています。そのようなプログラムに、今回、登壇者として参加できたことをとても嬉しく感じています。

今年のPatient Advocacy Program (略称:PAP/パップ)のテーマは「話してみよう/患者の困りごと、医療者の困りごと」。先生2名、患者2名がプレゼンターとして、それぞれ困りごとについて話しました。

1. 横山幸浩先生(名古屋大学 消化器・腫瘍外科)

横山先生は、多くの後腹膜肉腫の患者さんの外科治療をしてきた経験から、困りごとを話してくださいました。

後腹膜肉腫の治療には、大きくお腹を開く手術(Maximum Invasive Surgery)が必須です。後腹膜には複数の重要な臓器や血管があるため、後腹膜の開腹手術には高い応用力とスキルが重要であり、多診療科との連携も必要です。一方、現在、低侵襲のロボット手術(Minimum Invasive Surgery)が主流になってきており、開腹手術ができる先生が減っているそうです。横山先生はご講演のなかで、他のがん種と比較しながら、後腹膜肉腫の開腹手術をとりまく課題や背景について具体的に示してくださいました。

後腹膜肉腫の患者の一人として衝撃的なお話でした。このブログ記事で詳細まで書いて良いかわからないので、いつか別の機会に、後腹膜肉腫の患者仲間の皆さまと一緒にこの課題についてお話しできたら嬉しいです。

(横山先生は、同学術集会で「Minimum invasive surgery時代における後腹膜肉腫に対するmaximum invasive surgeryの技術教育を考える」というシンポジウムの座長を務めていらっしゃいました。そのシンポジウムの感想はこちらに書きましたので、ご興味ある方はぜひ。)

 

2. 土橋賢司先生(九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科)

土橋先生は内科の先生の立場から、お話ししてくださいました。前半は土橋先生が希少がんや肉腫の治療に関わるようになった経緯、後半は新薬の研究や臨床試験のお話をしてくださいました。

「治験は希少がん患者にとっては治療としての意味合いが大きく、とても大切なので、積極的な推進が必要」「希少がんという共通言語のもと、それぞれの立場から協働して課題に取り組んでいくことが重要」というようなことを仰っていたのがとても印象的でした。実際、どのように企業の方や他施設の先生方とともに治験提案を進めていくか、その際に土橋先生が感じる課題などについてもお話を聞くことができました。

土橋先生のような先生方が製薬企業の皆さまと信頼関係を築きながら、肉腫治療の開発を前進させてくださっているのだなと知れて嬉しかったです。

 

3. 吉﨑有希絵(私です)

私は、①冊子についてのご案内、②後腹膜高分化型脂肪肉腫の患者として自分の困りごとについてお話ししました。

②困りごとについて:「もうこれ以上できる治療はありません」と言われた頃の身体の状態や、生活の困りごとについて詳細に聞いて頂きました。当時、つらい症状を緩和するために腫瘍の減量手術を希望していましたが、多くの先生から「腫瘍の減量手術には意味がない」という言葉を聞き、しんどさの出口が見えず希望を失いそうになっていました。幸い、セカンドオピニオン先で、腫瘍の減量手術を引き受けてくださる先生に出会いました。大変な手術となりましたが、手術後はまた楽しく生活を送ることができ、生きる力(生きたい気持ち)を取り戻せて本当に良かったです。減量手術は、後腹膜高分化型脂肪肉腫の私にとっては大きな意味があったと思います。最後に、「主治医の先生が定年を迎えるので、今後、もう減量手術に意味を見出してチャレンジしてくださる先生に出会えないかもしれない」、「そもそも私の手術のような難しい開腹手術をできる先生が減っているらしい」という困りごとについてお話ししました。

 

4. 南敬一さん(肉腫の会たんぽぽ)

南さんは、患者の立場から、前半はご自身の治療経験、後半は困りごとについてお話ししてくださいました。診断がつくまでの困難、治療の選択肢が少ない病気を抱える不安など、肉腫患者のリアルが詰まっていました。

また、多角的な視点で提示してくださった困りごとの数々は、同じ肉腫患者として心のなかで激しく頷きながらお話を聞きました。特に、早期の「セカンドオピニオン」や「がん遺伝子パネル検査」についてのご提案は、私も「ぜひとも早く実現してほしい」と強く感じました。最後に、南さんが仰っていた「患者が『生きたいという願い』を諦めなくていい日がくることを叶えてほしい」という言葉がとても印象的でした。

後半のディスカッションでは、南さんから、「亡くなってしまった先輩方に代わって声をあげてきたい、発信していかなければと思っている」というようなお話もあり、大変胸打たれました。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

前半の講演が終了したあと、後半はディスカッションでした。指定論者として押田輝美さん(「肉腫の会たんぽぽ」会長)が加わり、オーディエンス席の先生方や患者さんたちからの意見を伺いながら、PPI(Patient Public Involvement / 研究への患者市民参画)のあり方などについてディスカッションが進み、とても有意義で刺激的な経験でした。

横山先生、土橋先生、南さんとともに、Patient Advocacy Programに参加できて、大変貴重な機会でした。肉腫医療が直面している「困りごと」について、患者側と医療者側がともに考え協働していくことこそが課題解決の糸口のヒントになるのではないかと強く感じたセッションでした。

PAPの皆さま、会場の皆さま、本当にありがとうございました!!

 

 

第9回学術集会:印象的だったご講演

先日、別府で開催された学術集会に参加してきました。

別府で有名な「海地獄」という巨大温泉池

学会名:第9回日本サルコーマ治療研究学会(JSTAR)学術集会
The 9th Annual Meeting of Japanese Association of Sarcoma Treatment and Research

会期:2026年3月5日(木)~6日(金)

会場:別府ビーコンプラザ(大分県別府市)

会長:田仲和宏(大分大学医学部先進医療科学科 教授)

第9回学術集会:https://jstar2026.org/

日本サルコーマ治療研究学会(JSTAR): https://jstar.or.jp/

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

日本サルコーマ治療研究学会学術集会について

JSTAR(日本サルコーマ治療研究学会 / Japanese Association of Sarcoma Treatment and Research)は、日本国内最大規模の肉腫治療の学会です。今年の学術集会には300名以上の医療者の皆さまが日本全国・海外から集まり、最新の研究や治療について発表したり議論したりする場となっています。

医療者の皆さまだけでなく、患者や患者家族の皆さまの参加が多いのも、この学会のユニークなポイントです。今年も、たくさんの患者さんやご家族の方々に出会いました。「少しでも肉腫のことを正しく学びたい」「どんなことでもいいから治療の情報を知りたい」という患者側の切実な思いを受けとめて歓迎してくださっているように感じます。毎年、「Patient Advocacy Program」も設けられており、今回は私も登壇者としてお話をさせて頂きました。(詳しくはこちら をご覧ください。)

JSTARの運営事務局は国立がん研究センター中央病院内(東京・築地)にあり、同病院の川井章先生が理事長を務めていますが、学術集会(年1度の総会)は、毎年、異なる地域の先生が会長を務めます。

(2023年は神戸、2024年は名古屋、2025年は札幌、2026年は別府。2027年の開催地はまだオンラインでは公開されていませんが、楽しみです!)

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

今年の学術集会について

私は、昨年の札幌に引き続き、2度目の学会参加でした。

まだ2度目ですが、すっかり学会のファンです。今年も面白かったなぁと思いながら帰ってきました。もちろん、学会はあくまで専門家同士の発表の場なので、全体的に専門用語が多く難しく、すべてを理解することは全然できないのですが、自分なりにキャッチできた部分だけでもかなり興味深かったです。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

印象的なお話は沢山ありましたが、中でも下記の4つのプログラムを聴けて本当に良かったです。

1つ目は名古屋大学病院の横山幸浩先生が座長をつとめたシンポジウム「Minimum invasive surgery 時代における後腹膜肉腫に対するmaximum invasive surgeryの技術教育を考える」。

近年、外科治療の世界のトレンドは、ロボットによる低侵襲手術(Minimum invasive surgery)が主流になっているそうです。「なるべく小さく切る」「身体に負担が少ない」と、内視鏡や腹腔鏡といったロボット手術を推進する病院や先生が多いようです。

一見すると良いことづくめのように感じますが、実は、肉腫患者にとってはかなり困った状況です。肉腫は、広範切除が基本で、大きく切って開く手術(Maximum Invasive Surgery)が必要な場合が多いからです。特に私が抱える後腹膜肉腫は、さまざまな重要臓器がある部位で、切除部分を慎重に見極めるためにも、大きな開腹手術が必要です。ところが、外科医の先生方がみんなロボット手術の道に進んでしまうと、肉腫治療に必要な大きな手術ができる先生がいなくなってしまいます。

低侵襲ロボット手術が主流になっていく時代に「大きく切る手術」の技術をどうやって若い先生に伝え、肉腫治療ができる外科医を絶やさないか。これは、いまのところ外科治療しか有効な選択肢のない私にとってかなり切実なテーマでした。シンポジウムでは、さまざまな病院の先生方が登壇して、過去の症例・院内多診療科チーム・技術の継承・手技の共有方法の紹介、報酬面の改善課題、モチベーションをどうするかなど、病院の現状や取り組みについて先生方の議論を聞くことができました。

肉腫治療に必要なMaximum invasive surgeryに興味をもつ若い外科医の先生をどうやって増やしていくか、患者側にも何かできることはないか考えさせられた時間でもありました。

2つ目は、北海道がんセンターの平賀博明先生と愛知県がんセンターの筑紫聡先生が座長をつとめたシンポジウム「肉腫手術の標準化は可能か―重要臓器に隣接する肉腫に対する戦略―」。

肉腫患者の皆さんから、「どの病院でも(大きながん診療拠点病院であれば)同じような治療が受けられたらいいのに」「住んでいる地域によって、受けられる治療に差がないといいのに」という言葉を聞くことがあります。このシンポジウムでは、そういった悩み解決の第一歩につながりそうな議論が繰り広げられました。

肉腫をどのように検査し、判断し、治療するのか。

肉腫は希少であるうえ多種多様で、診療科横断的かつ集学的な治療を要するため、細かな基準を設けて共有することがきわめて困難で、これまでは各々の施設のやり方や医師の経験に任せられてきた部分が大きかったようです。今まで多様なかたちで進められてきた肉腫治療を(施設の壁をこえて)「標準化」できるのか?どのように「標準化」するのが適切で現実的か?だれがイニシアチブをとってやるのか?複数施設のいろいろな専門分野(画像診断、病理、消化器外科、腫瘍内科、整形外科)の先生方が議論し合いました。活発な議論が交わされ、とても興味深く拝聴しました。

先生によってそれぞれ意見があるものの、様々な部分で「(標準化が困難なケースや揺らぎも共有しながら)(標準化できるところは)標準化していくべき」という方向性で概ね一致したようでした。今後どのように細かな規約がつくられていくのか注目です。時間はかかると思いますが、肉腫医療の景色が一気に変わりそうなポイントなので想像するとワクワクします!

3つ目は、「今こそp53の意義を問う」。座長は、九州大学の小田義直先生、第9回学会長であり大分大学の田仲和宏先生。京都大学iPS細胞研究所から戸口田淳也先生、Children's Mercy Research Institute (アメリカ合衆国ミズーリ州カンザスシティ)から岩熊智雄先生をゲストスピーカーとして迎えた特別企画講演でした。正直、めちゃくちゃ難しかったです。半分も理解できていないと思いますが、聞けて良かったです。

個人的な話ですが、私は、数年前に受けたがん遺伝子パネル検査の結果、MDM2遺伝子異常があることが分かりました。MDM2阻害薬の研究に関連して「p53」「TP53」という言葉をよく耳にしていたのですが、いまいちよく分かっていませんでした。p53の話題には「野生型(wild type)」「変異型(mutation)」という言葉がよく登場するのですが、今まで頭のなかがクエスチョンマークでいっぱいでした。今回の講演で(先生方にとってはきっと基礎知識的な前置き部分だったと思いますが)野生型と変異型のちがいがやっと(なんとなく)分かったことが嬉しかったです。

戸口田先生と岩熊先生のお話は患者の私には難しかったですが、発表をとおして、最前線の研究者の先生方がどのようなことに着目し、トライアル&エラーを繰り返しながら、がんと遺伝子の謎にアプローチし続けているかを垣間見れた気がしました。こうやって肉腫治療の未来がつくられていくんだと感じてとても嬉しい時間でした。p53について (でも難しい!)

4つ目は「Multi-disciplinary Case Conference」(座長:名古屋大学病院 西田佳弘先生、神戸大学 南博信先生)。

札幌開催時に引き続き、Multi-disciplinary Case Conferenceが開催されました。

とても面白かったです。

まず、さまざまな難しい症例について、登壇者の先生がプレゼンテーションを行います。そして、診断や治療選択で悩ましい問題にぶつかったときのお話をして、オーディエンス席に向かって問いを投げかけます。

次に、その問いに対して、オーディエンス席の先生方から意見や質問が飛び交い、「自分ならこう判断すると思います」「先ほどの治療選択をしたのはなぜですか」「こういう可能性もあると考えます」などと議論がヒートアップしていく様子を、患者としてドキドキしながら拝聴しました。

私は、先生方の議論を見ながら、「病院内で行われているサルコーマチームのカンファレンスというのはこういう感じなのかな」と想像していました。そして、ひとつの病院内ではなく、さまざまな病院の壁をこえて、肉腫治療に従事する先生方の議論を見ることができるのは、JSTARの学術集会ならではの醍醐味だなと思いました。

肉腫にはたくさんの難しいケースがあり、治療の正解がひとつだけではなく各々の専門家の先生方がベストを尽くしてくださっているんだろうな、とあらためて感じました。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 

白い湯けむりがあがる別府の風景

本当に、今年も学術集会に参加できて良かったです。

別府の街も最高でした。まだ2回目の参加ですが、昨年の札幌開催(すごく良かった)とはまた異なる良さがありました。開催地や主催の先生方によってそれぞれの良さや特色があるように感じます。

日本各地から会場に集まった先生方が熱心に意見を交わす姿をみて胸が熱くなりました。希少がんだからこその課題や難しさはたくさんあるけれど、こんなに先生方が頑張ってくださっているならきっと大丈夫と希望を感じ、力をもらえました。

次回は、2027年3月!また行けるといいなと思っています。楽しみ!

【ご報告と感謝】学会にて冊子を配布しました!

患者会「肉腫の会たんぽぽ」、JSTAR(日本サルコーマ治療研究学会)の皆さまのご協力により、学術集会会場にて、たくさんの医療者の皆さまに冊子をお届けすることができました。本当にありがとうございました。

2026年3月5日/6日、大分県別府市で開催された第9回日本サルコーマ治療研究学会学術集会(以下、第9回JSTAR学術集会)にて、冊子「Voices from Sarcoma Patients and Families(87人の視点からみるサルコーマの景色)」を配布いたしました。

あらゆる医療関係者の皆さまに、肉腫当事者の声を届けたいと考えてつくった冊子です。87人の患者、家族、遺族の皆さまのご協力のもと、とても良い冊子ができました。

------------------------------------------------------------

冊子や学術集会については、下記よりお読みいただけます。(文字をクリックすると各記事にジャンプします)

▶冊子の概要・お申込み方法

▶Patient Advocacy Programについて

▶今回の学術集会の感想(印象的だったご講演)

▶JSTARの活動について

------------------------------------------------------------

 

本冊子は、第9回JSTAR学術集会にて、Patient Advocacy Program(以下、PAP)登壇者としてお声かけ頂いたことをきっかけにつくりました。

今回のPAPテーマは、「話してみよう/ 患者の困りごと、医療者の困りごと」ということで、普段よりもまして、患者の困りごとに耳を傾けてくださる医療者の皆さまがいらっしゃると想像して、学術集会の会場で配布させていただきました。

配布する際、先生方にとって負担が減るように、患者会「肉腫の会たんぽぽ」の皆さまがかわいいお持ち帰り用トートバッグを準備してくださいました。本当に助かりました!たんぽぽの皆さま、ありがとうございました。

配布を快く許可してくださったJSTARの先生方、来場者の皆さまに手渡してくださったJSTAR事務局とたんぽぽの皆さま、本当にありがとうございました。

患者会「肉腫の会たんぽぽ」製作・冊子お持ち帰り用バッグ(かわいい!)

JSTARとたんぽぽの皆さまが長年ご尽力くださっていることですが、今後とも、患者側と医療者側の双方のあいだに継続的な対話の場がもうけられ、ともに前に進んでいける世界であってほしいと願っています。そして、本冊子もその対話の材料のひとつになれば幸いです。

配布にご協力くださった皆さま、受け取ってくださった医療者の皆さま、患者さまや患者団体の皆さま、ありがとうございました!

JSTAR学術集会バナーボード
(ここで記念撮影したかったのに、ついつい撮影しそびれてしまいました。次こそは!)

第9回JSTAR学術集会 会場エントランス
(開会前夜、冊子のセッティングをしていたら夜遅くなってしまい無人のタイミングを撮れました)

第9回JSTAR学術集会 会場の近く。
背の高い「グローバルタワー」の奥に、会場の「ビーコンプラザ」がありました。
海が見えて気持ちがいい場所でした~!

senaka-x.hatenablog.com